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多様なニーズに対応するグローバル製品のつくり方とは?──グレープシティがライブラリ開発の事例をもとに解説【デブサミ2021夏】

【B-8】多様なニーズに対応するグローバル製品のつくり方

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2021/09/10 12:00

 グローバルにさまざまなライブラリ製品を提供するグレープシティ。開発チームに寄せられる顧客の要望をどのように集積し、製品機能に落とし込み、開発しているのか。実際の製品事例をもとに、そのプロセスや顧客のニーズ対応に関するポイントを、同社のプロダクトマーケティングチーム リーダーである村上功光氏が紹介した。

グレープシティ株式会社 ツール事業部 マーケティング部 プロダクトマーケティングチーム リーダー 村上功光氏
グレープシティ株式会社 ツール事業部 マーケティング部 プロダクトマーケティングチーム リーダー 村上功光氏

みんなが満足する製品づくりとは?ニーズに応える3つのポイント

 グレープシティのソフトウェア開発支援ツール事業では、日本をはじめとして、アメリカ、中国、韓国に拠点を構えながら高機能ライブラリの開発・販売を行っている。開発サイクルとしては、カスタマーレスポンスの収集を行い、ニーズを抽出してリスト化。最終的にニーズを機能に落とし込んで実装する。サイクルとしては一般的だが、グローバルに製品を展開していると、少し面白い傾向が見えてくる。

 「世界中から製品に対する多くの要望が来るのですが、その要望を細かく見ていくと、国によって特徴があることがわかってきました。その内容は、時に相反するリクエストが来ることもあります」(村上氏)

 例えば、ある国のプロダクトマネージャーは「最先端技術に対応したい」と言い、別のある国のプロダクトマネージャーは「うちの国で一番重視されているのは安定性だ」と言う。この2つの要望は相反しており、製品づくりの中で両立させるのは難しい。こうしたさまざまなニーズがある中で、みんなが満足する製品作りを行うには、どのように対応したらいいのだろうか。

対立するニーズの例
対立するニーズの例

 このような相反するニーズが出てきた場合は、グレープシティではグローバル開発会議を行っている。各拠点のプロダクトマネージャーと開発チームが一堂に集結し、協議しながら機能を決定し、実装しているのだ。ニーズ対応に関しては、「製品で考える」「機能で考える」「データで考える」という3つのポイントを重視している。それぞれのポイントについて、村上氏のセッションをもとに詳しく紹介していこう。

【Point1】製品で考える

 1つ目のポイントである「製品で考える」については、同社製品の「SPREAD(スプレッド)」をケーススタディに説明が進められた。SPREADはExcelライクなUIと機能性を開発アプリケーション上で簡単に実現できるライブラリである。このライブラリを開発する過程において、ある国からは「チャートの種類を増やしてほしい」、またある国からは「大量のデータを表示できるようにしてほしい」という要望が寄せられた。

各拠点から寄せられた2つのリクエスト
各拠点から寄せられた2つのリクエスト

 この相反するニーズに対し、グレープシティは「チャートの種類を増やす」機能の実装を先に行い、「大量のデータを表示する」機能についてかなり検証を行った上で、後から実装を行った。その理由は「スプレッドシートの本分は、データ表示にあらず」という判断をしたからだと村上氏は言う。

 「世の中には、似ているようで似ていない2つのUIがあります。1つはデータグリッドビューと呼ばれるもので、主にデータ表示に使用されます。もう1つはスプレッドシートと呼ばれるUIで、データ表示に加えて数式設定やチャートの表示ができ、データ分析を行うためのもの。SPREADはこのスプレッドシートに当てはまります」

似ているようで似ていない2つのUI
似ているようで似ていない2つのUI

 つまり、チャートの種類を増やしたいというのはスプレッドシート機能の拡充にあたるため、問題ないと判断。しかし、大量のデータを表示するためには、データグリッドの機能をスプレッドシートに追加しなければならない。

 大量のデータを表示できるように実装した場合、その大量のデータ分だけ数式も一緒に動かないと、スプレッドシートは機能しない。主目的が異なるライブラリの機能を入れてしまうと、かなりの負荷がかかる。そのため、ちゃんと動くかどうか慎重な検証を行った上で、実装を行ったのだ。

 「製品で考える」ポイントは、製品のコンセプトやアイデンティティを踏まえながら、まずニーズが一致するかを確かめること。その上で開発を行っていけば、満足してもらえる製品が作れるのではないかと、村上氏はまとめた。

【Point2】機能で考える

 2つ目のポイント「機能で考える」については、同社の製品に付属するデザイナがケーススタディとして紹介された。デザイナはライブラリの外観やプロパティをGUIで設定できる支援ツールで、プログラムを書く必要がない。

 このデザイナを開発する過程においても、ある国からは「もっと機能強化をしてほしい」と要望され、別の国からは「デザイナは使っていないので、別の機能を強化してほしい」という要望が寄せられた。

 デザイナを機能強化することでメリットを享受できるユーザーと、そうでないユーザーがいる。だが、グレープシティは「デザイナの機能強化を行う」と決断をし、機能の実装を行った。その理由として村上氏は、使われていない機能が悪い機能ではない点がポイントだと語り、「機能のポテンシャルと利用頻度」という観点について説明した。

 縦軸に利用頻度、横軸に生産性(便利性)を置き、マップの中に機能を分類してみると、以下のようになる。利用頻度は高いが、生産性はそれほど高くない「基本機能」、利用頻度が高くて、生産性も高い「キラー機能」。利用頻度も生産性も低い機能は、「特殊用途でしか使用しない機能」だが、必要な時には非常に役立つ。

機能のポテンシャルと利用頻度の確認
機能のポテンシャルと利用頻度の確認

 そして一番のポイントとなるのは、生産性が高いが、利用頻度は高くない機能である。村上氏はこれを「潜在的キラー機能」と呼び、高いポテンシャルを持ちながら知られていない機能であり、開発の側面から言うと、どんどん追加していい機能だと強調する。

 一方で、開発と並行して、この機能をどのように使うといいのかなどを紹介するマーケティング活動も必要であると補足した。

 「その機能がお客さまの目的に貢献できるものであるなら、利用頻度が低くても機能強化を行う。ただし、マーケティング活動を通じてその便利さを知っていただくことが重要。そうししたことが、お客さまにとって満足度の高い製品づくりにつながると考えています」

【Point3】データで考える

 3つ目の「データで考える」については、グレープシティのJavaScript製品を例に語られた。それらはWebアプリケーションのフロントエンド開発で使えるライブラリで、さまざまなブラウザ上で動くのだが、世界的な技術トレンドを踏まえて「Internet Explorer」対応を止めようという要請が、日本以外を担当するプロダクトマネージャーたちから挙がったことがあったのだ。

 Internet Explorer対応をやめることのメリットとして、「専用コードが撤廃できる」「モジュールサイズが減る」「メンテナンスコスト削減」が挙げられる。さらに、他のモダンブラウザで動く、最新のJavaScriptコードを使いながら製品を作ることで、「基礎パフォーマンスも向上させる」ことができるかもしれない。

 グレープシティは、そうした開発面でのメリットはあるが、日本ではまだまだInternet Explorerユーザーが多く、この要望を受け入れることは難しいと判断。そこでデータをもとに検討することにした。

 2016年当時のデータを見ると、世界のブラウザシェアはモダンブラウザが約8割を占めているが、日本のブラウザシェアはInternet Explorerが23%と、2番目の大きなシェアを占めている。こうしたデータをもとに、同社はInternet Explorerのサポートを継続することを決め、今もサポートを継続している。

ブラウザウェア(2016年当時)
ブラウザウェア(2016年当時)

 ここで重要なのは、「データとニーズが一致していることを確かめること」だと村上氏。最後のまとめとして、改めて「製品で考える」「機能で考える」「データで考える」という3つのポイントが大切だと語り、セッションを締めた。

 また同社では、市場の調査や分析を行った上で、製品のプロモーション戦略を立てる「プロダクトマーケティング」と、製品を開発する「プロダクトエンジニア」を募集している。フルリモート、完全週休2日制など、エンジニアが働きやすい環境や待遇を用意しているそうなので、興味がある方は「グレープシティ 採用」で検索してみてほしい。

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著者プロフィール

  • 馬場 美由紀(ババ ミユキ)

     エンジニアとテクノロジーが好きな編集・ライター。エンジニア向けキャリアサイト「Tech総研」「CodeIQ MAGAZINE」、Web技術者向けの情報メディア「HTML5 Experts.jp」などでライティング、コンテンツディレクション、イベント企画などを行う。HTML5 開発者コミュニティ「h...

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